※ご視聴にあたっての注意
本作の内容には、人の死、流血、災害場面が表現されています。
それらの描写を避けたい方は、ご視聴をお控えください。
これは、昔々のお話──
東の方の山あいの小さな漁村で、一人の赤ん坊が、月足らずで生まれました。
小さな小さな女の子でした。とても可愛くて、元気な赤ん坊でした。
でも、たった一つだけ、この子には普通の赤ん坊と違う、奇妙なところがありました。
その赤ん坊は、産まれたときに、おぎゃあと泣き声をあげるどころか、ウンともすんとも言いませんでした。
それどころか、ちいさなお手てで、自分の口を塞いだままで、産まれてきたのです。
ひとこともしゃべらぬその娘が、生涯でただ一度だけ発した言葉とは―――
本作は、ああかむの軒先を借りて発表いたしますが、このブランド作品ではなく、あくまで私、関戸ゆいぎの個人的な作品です。よって、作品内容に関するご批判は、全て私個人に向けられるべきものです。
この物語の草稿は、二〇一一年三月の末に一気に書き上げました。
ですが、ずっと公開を見合わせてきました。草稿を読んでもらった人たちの多くから「今、このような作品を発表するべきではない」と、かなり強く押し止められたからです。
その理由もまた、聞かずとも納得できるものでした。そしてその後、私は本作を一〇年間ずっと公開することなく奥底にしまい込んだままにしておきました。
一〇年目となる今もまだ、この物語を公開して良いのか、いけないのか、ずっと悩み続けています。自分ではこの物語を慰霊のつもりで書いたのですが、果たしてこれが慰めになるのか? これを読んだ人の中には―――とくに、災害で大切な人や大切なものを失った人の目からすれば、このような架空事は怒りを呼び起こすだけの物かも知れません。
しかし、悩みながらも、私はこの物語を、やはり世に出すべきだと決心しました。
作品内容が正しいか間違っているか、許せるか許せないか、断じられるべきか救われるべきか―――という事とは別に、あの未曾有の災害をきっかけに、自分の心の中にこのような物語が生まれてしまったという事実を記しておこう、と―――それが、本作を今公開することにした、私個人の理由です。
よって、繰り返しになりますが、本作に関するご批判は、全て私個人に向けられるべきものです。決して、私以外の人を詰らないでいただきたいく、お願いいたします。
本作に挿絵を描いてくださいました悠路氏に、心から感謝申し上げます。
そして、全ての災害被害者の皆様に、心より深くお悔やみ申し上げます。
二〇二一年三月一一日 文責:関戸ゆいぎ