千年ほど昔の、中国の話でございます―――

科挙を受験するために上京する一人の青年。
山道に彷徨い、辿り着いた閑村で、一夜の宿を求める。

青年が旅の疲れに眠りに落ちた夜更け過ぎ―――彼の臥所に潜り込んでくる者がいた。
青年の鼻孔をくすぐる、あまい微香。
若い女の芳香が―――

この世のものとも思われない少女の、可憐で儚げなその笑みに、一瞬で青年は心奪われる。
夜明け前に姿を消してしまったその人は、この家の娘だろうか？

翌朝、礼を述べるとともに、夜に出会った少女の事を尋ねる。
すると、家の主の顔色が変わる。

「実は、当家に一人娘がいたのですが･･････」

ふとしたはずみで、川に落ちて溺れ死んでしまったという。
この村では、処女のまま亡くなった女性の霊は、名残惜しんでこの世をさ迷い歩くと言われている。

「娘も、きっと、そうして現世を彷徨っているのでしょう。
　憐れとお思いならどうか娘の貞操を奪って、成仏させてやってくれないでしょうか」

その夜、少女の死体と同じ寝台の中で、青年は眠る。
そして、夜更け過ぎ、冷たい少女の骸が動き出す―――

『冥婚』―――あるいは、幽婚と言ったりもしますが、未婚のまま若くして亡くなった死者の霊を慰めるために、生者と死者を結婚させる風習は、本当にあるものです。
古くから東南アジア地域では存在し、今日でもアジア各地で時折散見される奇習のひとつです。

死者との結婚、という物語は、非常に古くからあるドラマです。

ギリシャ神話では、竪琴詩人オルフェウスが亡き妻エウリュディケを蘇らせようと冥界まで降りていきます。
日本の三大怪談の一つ『牡丹燈籠』は正に幽霊と契りを結ぶ男の悲哀を描いています。
本作の元になった中国の怪談集『聊斎志異』にも、死者との恋物語が幾つも記されています。

私にも、幽霊でいいからもう一度会いたい人がいて、時折その顔が思い浮かびます。生きているうちに、その顔は少しづつ増えていくでしょう。
「愛別離苦」の痛みは、人が人であるうちは、ずっと抱えていく「業」なのでしょう。

本作は、ゲーム発売前に、WEB上で本編ストーリーを連続掲載していきます。
従来とは違った形式での発表になりますが、皆様にこの物語をご覧いただければ嬉しいです。

関戸ゆいぎ（シナリオ担当）